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宝塚混声合唱団

Takarazuka Konsei Gasshodan (Takarazuka Mixed Choir) since 1980


第23回宝塚混声合唱団音楽会の演奏曲のご紹介   Essays

2011年7月3日(日)伊丹ホールの第23回音楽会では次の三曲をオーケストラと一緒に歌います。

 ♢ Arvo PärtのTe Deum(ピアノと弦楽アンサンブルと合唱)
 ♢ Arvo PärtのBerliner Messe(弦楽アンサンブルと合唱)
 ♢ Steve DobrogoszのRequiem(管弦楽アンサンブルと合唱)

■ アルヴォ・ペルト / Arvo Pärt
アルヴォ・ペルトは1935年エストニア(合唱王国バルト三国の一つ)生まれました。1970年代半ばまで“ソヴィエト前衛派”を代表する一人として12音技法や音響作曲法などの前衛的な作品を 発表していましたが、やがてこれらの方式に行き詰まって1968年から作曲活動をほぼ停止し、自分の音を求めてグレゴリオ聖歌と中世・ルネッサンス期の声楽ポリフォニーの研究に没入しまし た。1976年、8年に亘った沈黙に終止符を打ち、中世声楽曲の研究の中から編み出した作曲様式“ティンティナブリ”(tintinnabuliラテン語で“小さな鐘”の意)を用いた作品を発表し始め ました。ペルトはキリスト教の信仰心が篤かったこともあってソ連支配下のエストニア政府と折り合いが悪く何度となく摩擦を起こしていましたが、1980年になって政府から事実上追放され家 族と共にウイーンへ行き、翌年奨学金を得て出向いた当時の西ベルリンにそのまま移住しました。その後1993年になって、1991年にソ連から独立宣言していたエストニアに帰国しています。

ペルトの作曲様式“ティンティナブリ”は音の要素を極限まで削って簡素化すること、和音部とメロディー部が2本の柱を構成し両者が絡み合って濃密な音を織り出すこと、歌詞の発音と文法上 の特性がメロディー部の動きを規定することなどの特徴を持ちます。

 今回歌う「ベルリン・ミサ」も「テ・デウム」も“ティンティナブリ”様式の作品です。最初はどちらの曲も現代曲だからどんなに難しいかとおっかなびっくりだったのですが、音の要素が簡素 化されているためでしょうか譜読みは思いの外に簡単です。びっくりするのは、ソプラノとテナーがドミソとかラドミとかの和音の階段を延々と上がったり下がったりすることです。引き替えに 、いつもはメロディーを歌うなどという贅沢に恵まれないアルトとバスがメロディー声部を歌わせて貰います。この二つの声部が絡み合うときれいな響きになります。鐘の音とグレゴリオ聖歌が 交じって響き合うといった感じでしょうか、Tintinnabuliがそういう作りになっているのでしょう。  (文責 バス 井上)


■ ベルリン・ミサ / Berliner Messe
「ベルリン・ミサ」はベルリンの“壁”が崩壊した翌年の1990年の作曲で当初はソリスト(SATB)とオルガンのための曲でしたが後日合唱と弦楽オケ用に改訂されました。初演は1990年5月24日、 ベルリンの聖ヘドヴィクス・カテドラル(St. Hedwigs Kathedrale)においてポール・ヒリアー(Paul Hillier)指揮による室内声楽アンサンブル“声の劇場”(The Theatre of Voices)の演 奏です。このミサ曲はドイツカトリック教会の委嘱作品ですが、Alleluiaとそれに続く続唱Veni Sancte Spiritが含まれているのでペンテコスト(Pentecost)のためのミサ曲です。ペンテコス トはイースター聖日曜日の50日後の祭礼でキリストの“復活”を聖霊が使徒たちに告げる“降臨”を祝うもので、1989年の“壁”崩壊=自由の“復活”を喜んだのは委嘱主のドイツ・カトリック 信徒はもちろんですが、共産政府との軋轢に苦労したペルトの喜びも人一倍だったでしょう。 (文責 バス 井上)


■ テ・デウム / Te Deum
「テ・デウム」は「ベルリン・ミサ」の6年前1984年の作曲、西ドイツ放送の委嘱作品で、1985年1月19日にケルン放送合唱団がケルンで初演しています。「テ・デウム」では“ティンティナブリ” 様式のほかに、グレゴリオ聖歌風の詠唱(チャント)が先導したあと合唱が展開するパターンがしばしば現れること、一定の音程の低音が鳴り続けて教会堂の風合いを出していることなどの特徴が あって、ルネッサンス期のポリフォニー・ミサに通じるものを持っています。「テ・デウム」は、“われ、汝を神とほめまつるTe Deum laudamus”に始まる賛歌で、ラテン賛歌中最も普遍的に用い られ、感謝を表わすときに用いられることから戦争の終結や戴冠式など国家的祝典や記念行事に使われて大規模、壮麗なスタイルになって来ました。宝混は先年ヘンデルのゲッティンゲン・テ・デ ウムを歌いましたがこれも戦勝記念の歌でした。ところがペルトの「テ・デウム」にはあまり華やいだところは感じられず深く内省的な感じを受けます。ペルトの音楽は独特の静けさをもっていま すが、これは日本人の感性に訴えるところがあって、そいうものを表現出来たら素晴らしと思います。「ベルリン・ミサ」も「テ・デウム」もちょっと風変わりな特徴を持ち宝混がこれまで歌って きた宗教合唱曲とはかなり趣が異なる現代宗教合唱曲であることに間違いないですが、教会聖歌や中世・ルネッサンス期の合唱音楽に通じているという点で、私たちは今回かつてないほど合唱の原 点に近い音楽に取り組んでいるということも出来そうです。(文責 バス 井上)

■ ドブロゴスツ「レクイエム」/Steve DobrogoszのRequiem
数々の名作があるレクイエム(死者のためのミサ曲)ですが、今回は現代作曲家ドブロゴスツ(Steve Dobrogosz)の作品を歌います。ドブロゴスツは1956年アメリカ生まれですが,1978年にスエー デンに移住し、ジャズからクラッシックまで幅広い分野で活動しています。日本へも何度も来ているようで、日本の合唱団と共演している映像をインターネットで見ることができます。

このレクイエムは、Requiem, Hostias, Agnus Dei, Lux Aeterna, Libera Meで構成されています。この曲の大きな特徴は同じメロディが反復されて展開していくパターンが多いことです。しかし 歌っているうちにこれが自然に馴染んでくるのに気づきます。レクイエムは死者の魂安かれと祈る曲ですが、残された者の心を静める歌でもあるのでしょう。死者を想う生者の心のうちは、たゆ たい、ゆりもどし、またたゆたい続ける、それを映しているのでしょうか。折しも東日本大震災で数多くの人々が突然に命を絶たれました。御霊安かれとの想いを込めて歌います。(文責 バス 井上)